比較広告資料館 弁理士 山口朔生
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比較広告判例集
目次

アンケート比較

ビダルサッスーン 対 ブリストル マイヤー

ブリストルメイヤー社が1980年にシャンプーを新たに発売することになった。この会社の専門は製薬。だからシャンプーでは知名度はない。そこで新たな商品『ボディ・オン・トップ』を強烈に訴えるためにアンケート比較による広告を採用した。
手始めに6月からテレビ放映を開始した。モデルのフェラーレ嬢はターバンをほどいてシャンプーしたての豊かな髪をたなびかせ『ボディオントップ』を片手に持ってこういう。

私のような(髪の豊富な美人という意味?)女性900人にシャンプーテストをお願いしました。その結果この『ボディオントップ』は、からだには『プレール』よりも、コンディションでは『フレックス』よりも、そしてすこやかな髪には『サッスーン』よりも高く評価されました。

フィラデルフィア・インクワイヤー
1980年8月27日
ここで比較された各ブランド、「プレール」「フレックス」そして「サッスーン」は以前から販売されているシャンプー。フェラーレ嬢がその名を口にするたびに容器の映像が画面に現れる。
モデルの名前を取って『フェラーレ900』と呼ばれたこの広告は一連のシリーズが作られた。そしてテレビ、1種類の新聞、1000万部のダイレクトメールによって広く全米に配布された。
すべて『ボディオントップは、すこやかな髪の維持に『サッスーン』よりも高く評価されました。』と結ばれていた。

ビーダルサッスーンの訴え
この表現では900人の女性に質問したことは分かる。が、さて何%の女性が支持したのか分からない。900人全員だろうか。比較された側の反応はどうだったか。
若い女性向きのシャンプーなのに、それが900人(全員?)の若い女性からそっぽを向かれたのでは致命的。『そんなはずがないぜ』という自信があったのか、ビーダルサッスーンはこの比較広告の放映、広告の配布の永久差止めを求めて訴えた。同年9月である。
被告ブリストル社は、争いの経過で『フェラーリ900』のデータの根拠を開示しなければならない。多数の証人や資料を使った攻防の段階で次のような事実が明かになってしまった。

ブリストル広告の問題
被告の広告では次の点が問題となった。
(1) このアンケートでは900人の女性が参加してはいなかった。たった200人だった。
(2) その200人の女性の1/3はフェラーレ嬢のような成人女性ではなかった。高校生だった。
(3) 選ばれた女性は複数のシャンプーを比較して回答したのではなかった。一種類のシャンプーを使ってみただけだった。
(4) 評価は6段階だった。が集計の際には上の2段階を加算して利用し、下の4段階は削除していた。
(5) 比較したサッスーンの場合、テスターの女性達にその使用の指示書に従わないような使い方を勧めていた。

データの公正性
テレビ、新聞、ダイレクトメールとこの広告には膨大な費用がかかったはず。それなのに、なぜこんな欠陥だらけのアンケートを行ったのか。テストを請け負ったMISI社の社長ベルディ博士でさえ『比較広告の目的で単品目かくしテストを行うのは疑問ですな』と答えているのだ。
なぜだろう。実はこのテストは比較広告のために行ったものではなかった。ではなんのために?新商品を世に出す前に、自社の新商品だけに対する絶対的な評価に使用するためのテストだった。
全国展開の前に消費者の反応をみようという目的だ。だから自社と他社のシャンプーと区別し比較できるような評価に反映させることはできないのである。
ところが広告部長のローマン氏がその都合のいいところだけを取り上げて比較広告に利用してしまった。それでは突っ込まれれば矛盾がでるばかりだ。当然のことだろうが、裁判所はデータが公正でないことを認めた。データが公正でなければ消費者がミスリードされることは明かである。
原告のビーダルサッスーン社にも回復不可能な損害を与えるだろう。こうしてブリストルメイヤーには『フェラーレ900』シリーズの広告を中止する命令が下ったのであった。

Vidal Sassoon, Inc.  V.  Bristol-myers Co,
213 USPQ 24
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