比較広告資料館 弁理士 山口朔生
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一番比較

アメリカン・ブランズ 対 レイノルズ・タバコ

「一番」とは最上のこと。
「ウチのが一番」といえば、すべてのライバルの同種の商品、サービスのすべてと十分に比較した上で、当社の製品が最も優秀、という意味になる。するとこの比較広告の仮想の相手は誰だろう?日本中、世界中のすべての同種の商品、同種のサービスということになる。
そうなのだ。1社や2社の商品が比較の相手ではない、世界中を相手にしての比較だから、その自信たるや並じゃない。このタイプの比較を我々は「一番比較」と名付けた。このタイプの比較なら消費者も安心だ。なぜ安心を感じるのだろう。

「一番」が二人いた
例えばキャノンが「他社のカラーワープロと比較しました」といったらどうか。東芝とか日立とか具体的に名前を上げてくれなければキャノンの実力は分からない。ここでいう「他社」は三流メーカーかもしれない。そして東芝や日立との比較は行ってはいないのかも知れない。名もない三流メーカーの三流品と比較してキャノンがきれいといっても「ウソじゃないだろうが、そりゃあたりまえ」。しかし「一番」ならどうか。世界中、日本中のすべての商品との比較が終わっているはず。だから消費者は安心だ。しかし「一番」は世界でひとつか?
だがここでさらに考えて見よう。「一番」は本当に1社、1商品の場合だけに限るのだろうか。オリンピックではともかく、小学校の運動会の光景。「一等」の旗の下に2人が仲良くならんでいる。ほぼ同時にテープを切れば2人とも一番だ。だからお母さんに「ボク今日の競争で一番だったヨ」といっても決してウソじゃない。
だがビジネスではどうだろう。そんな運動会のようなケースがあるだろうか。それがあるのだ。複数の会社の商品、サービスの性能、価格、支持率などが同じだった場合である。
「当社のカラーワープロは一番、なんと26万色」と広告した。26万色は数の上では確かに一番、しかし多数のライバルの内のある一社が、実は26万色のカラーワープロを発売していた、というケースだ。すると「色数が一番」はウソではない。ウソではない、が「一番」と言いきるのはなんかおかしい。その結果、消費者にどんな影響を与えるか、ライバル商品の売り上げにはどう影響するか。ビジネスの世界で「一番」商品が複数あった場合、小学校の運動会のほほえましい光景などはすっとんでしまうのだ。

「ザ・ワシントン」1988年7月号
「ナウはタールが一番少ない」
一番商品が複数あった、というケースはなにも我々が想像をもてあそんでいるわけではない。実際にそんな争いがあるのだ。アメリカンブランズとレイノルズタバコの争いである。右の写真はタールの比較だ。アメリカンの「カールトン」は3mg、それに対してレイノルズの「ナウ」はわずか2mgだ。この広告のように両者は永遠のライバルなのである。

この比較広告に限らず、タバコの広告ではタールの量はイメージ作り、販売量に大きく影響してくる。当時、著名なタバコメーカーのレイノルズの「ナウ」のタールはわずかに2mgで他社と大きく引き離していた。そこでタールの量を強調する立て看板をハイウエイに沿って並べた。

アメリカンの訴え。
ところがアメリカンはこの看板を「すぐに撤去せよ!」と訴えた。なぜか?なんと、訴えた日の1日まえ、アメリカンは新たに「カールトン83」の発売を開始したのだが、実はそのタバコの含むタールの量がアメリカンの「ナウ」とまったく同じ「2mg」だったのである。

このケースが「1等が二人」の例である。同じサイズで、同じ量のタールを含んだタバコが2種類存在する。それでも一方が「一番」と名乗っていいのだろうか。
訴えたアメリカンにいわせればこうなる。レイノルズの「一番」表現の比較広告。これはあたかもタール2mgのタバコは1種類しかないような印象を与えるじゃないか、と。

ウソは言っていない。
しかし訴えられたレイノルズは反論した。文字の上ではなにもウソを言ってないだろう。たしかにおたくのカールトンは2mgかもしれない。しかし当社のナウだって立派に2mg、両方とも他の多数のタバコと比較すれば「一番少ない」のだ。しかも当社の広告では「これ以外に2mgのタバコがまったく存在しない」とは言っていないじゃないか、と。

この争いは結局訴えたアメリカンの証拠が不充分だった。ハイウエイに並べたレイノルズの看板が、消費者をミスリードしているという決定的な証拠を提出できなかったのである。そのために、看板の表示を禁止するという、アメリカンの要求はとおらなかった。しかし結論はともかく、「一番比較」において、「一番が二人」の問題が架空の議論でないことははっきりしただろう。そして比較広告において「一番」という用語を使用する場合の注意点も明らかになっただろう。

American Brands, Inc.,  V.  R.J.Reynolds Tabacco Company
413 FEDERAL SUPPLEMENT 1352
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